第9章  終わりに

 様々な図書館を実際に調査見学し、図書館員の方々に接して驚いたことのひとつに、サインの重要性の認識度がある。サインの重要性については、ほとんどの図書館の方々が認めておられた。「サインは大事である。なんとかしなければならないと思っている」と・・・。ところが、その実現となると、まだ行われていないというのが実状であった。しかし、それでいいのだろうか。サインの目的は、「情報を伝える」ということであり、それは図書館員が常に大事にしてきた「資料」や「目録」とも全く同じ目的を持つものなのである。

 また、(注1情報を伝える相手すなわち利用者に対する配慮がサインには現れる。どこまでも利用者の視点に立ち、問題意識を持つことがサイン改善の第一歩であり、図書館員の基本であろう。本研究も、その原点のもとに進められた。大学図書館においては、「そこまで学生にしてあげる必要があるのか」という意見もあると思われる。確かに何もかも与えるのがいいのではない。あくまで彼らが自分自身で考える、その手助けをするのが図書館員の仕事である。そのための最高の環境を整えることに、努力を惜しむ理由はない。

 このようなサインの重要性を一層認識していただいたならば、あとは実行するのみである。この報告書は、これまでのサイン研究論文とは異なり、新館建築時を対象とせず、一番需要があると思われる「既に失敗してしまったサイン」を改善できる点に特徴があるのだ。時間のない方は即実行できる第7章から読んでいただいてもよい。また、第6章のチェックリストで自館を評価すればより的確に改善がなされるであろう。さらに第1章〜5章までをお読みいただければ、チェックリストや改善案が完成するまでのいきさつを、深く理解することができるであろう。丁度(注2「図書館の達人」ビデオシリーズが世に出たとき、「人・時間・予算」の壁を破る利用者教育の強力ツール新登場として注目を集めたが、我々が目指したのも、同じものである。一人でも多くの図書館員の方々に活用していただき、一つでも多くのサインの改善に役立てば我々の本望である。

 ただし、サインがすべてではない。究極の目的は、利用しやすい図書館を創造することである。今回のサイン改善はそのための第一歩にすぎない。あくまでも図書館広報・利用者教育の一環として、この改善はすすめられるべきであるし、図書館サイン計画・図書館建築・図書館経営などと相互に補完しあうことによって、日々の改善は本当の意味を持つ。

 また、時間の制約により、今回の共同研究では、図書館以外のサインを研究するにまでに及ばなかった。さらに情報機器の発達に伴い、図書館広報も大きく変わってゆくだろう。これらは今後の課題である。

 最後に、本報告書作成にあたって、調査にご協力をしてくださった各大学図書館の皆様と、2年間の研究を支えてくださった私立大学図書館協会東地区部会研究部の方々、また企画広報研究分科会OBの方々に、深く御礼申しあげます。


(注1)専門図書館 no.93 p.29には、「良いサインの裏には、必ず旺盛なサービス精神の思想がある。」とある。
(注2)JLA利用者教育臨時委員会 図書館雑誌 v.86 no.11 p.798には、同作品の紹介記事がある。


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