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私立大学図書館協会2002年度東地区部会館長会
テーマ「いわゆる情報リテラシー教育について」


日 時:2002年6月7日(金) 12:20〜13:20
会 場:武蔵工業大学環境情報学部(横浜キャンパス)3号館 YCホール
出席者:43大学45名(別紙出席者名簿参照)
司 会:宮内 保(文教大学付属図書館長)
記 録:藤倉 恵一(文教大学越谷図書館)

〈司会:文教大学付属図書館長・宮内 保〉

 文教大学の宮内でございます。昨年度と今年度、東地区部会の部会長を務めております。
本日はご多忙のところ、よくお越しくださいました。
 はじめに、こちらに並んでおいでの方々をご紹介します。まず私立大学図書館協会会長・
中京大学の長谷川先生。それから次期部会長校・法政大学の白井先生。続いて現在の研究
部担当理事校・亜細亜大学の中村先生。そして監事校・明治大学の副館長、木谷先生。
 それではあらためてよろしくお願いします。

 先ほどの総会のときにもちょっと申し上げました。ご出席の方には二重になりますので
簡単に申し上げますが、図書館の「館長会」と銘打ちながら、実際に館長が一堂に会して
いろいろなことを話しあうという機会がまったくないというのはいかに考えても不都合に
思われます。隔年に「館長・事務長会議」と称する会が行われるのですが、実はこれは館
長が集まっていろんな内部の事情を話しあったり、場合によっては愚痴をこぼしたりとい
うような時間がまったくとれません。そこで東地区部会総会のこの時間を借りまして、各
大学の実情や今後のことをお互いに意見交換してみてはいかがだろうかというのが、この
会を立ち上げた趣旨でございます。
 ご多分に漏れず、わたくしどものところでも「大学改革」と称していろいろやっており
ますが、これは早い話、いずこも似たり寄ったりではないかと失礼ながら忖度申し上げる
んですけれども。いかに学生を集めるか。そのためには、学生がどういう看板に飛びつい
てくれるのであろうか。と、そういった面のことしかやらないというのが大筋であろうか
と思います。これでは大学改革にならないのであって、大学改革というのはやはり「いか
に学生に力をつけさせるか」ということに尽きると思いますし、その際に、図書館の果た
す役割というのは本来重要でなければならないと存じます。ものを考える学生・若者を生
みだすに大学図書館は何をなすべきか、そういったことをめぐって意見交換ができれば、
と思っております。
 学生たちに勉強させるためには、いかに資料を自ら取捨選択する──紙メディアであろ
うが電子メディアであろうが──ということが第一でなければならない。
 そのためには図書館員がそれをサポートしてやれる、場合によってはリードしてやれる、
というくらいの力を持っていないと図書館の存在というものはいつまでたっても薄いまま
であろう、ということをこの数年わたしは危惧しております。
 長話になりましたが、今回は初めての試みでございますので、非常に準備不足であるこ
とは否めません。あるいは「なんであんなふうな会だった」と後でお叱りを被るやもしれ
ませんが、今年度はともかくも、わたくしどもの大学で、一年生に大学に入ったときに「資
料をいかにして選択するか」あるいは「パソコンの端末を通じていかに資料収集をやるか」
というふうな指導を──従来もやっていましたが、このところ少し力を入れてやっており
ますので、それがこのような実情でありますということをまず話題提供ということで報告
申し上げます。
 わたくしどもの図書館の藤倉がいまあちらに控えておりますが、藤倉にその報告をして
もらいますので、それをお聞きいただいた上で「自分たちの図書館ではこうなんだ」「文教
のやり方は手ぬるいよ」などいうような叱咤激励を、あるいは「文教のやり方をわれわれ
も取り入れなければ」ともし言っていただければ非常に幸いでございますが、そういうふ
うな意見交換の場に、今回はともかくもしてみたらいかがかなということでございます。
 まことに僭越でございますが、そういう趣旨で会を進めさせていただきたいと思います。
 では、藤倉君、お願いします。

〈文教大学越谷図書館・藤倉 恵一〉

 ご紹介いただきました、文教大学越谷図書館で資料相談を担当しております藤倉と申し
ます。どうぞよろしくお願いします。
(以下、配布資料に基づいて説明)

〈司会〉

 はい、どうもありがとうございました。
 状況についていくつか補足をさせていただきます。いま藤倉が「文教大学越谷図書館」
と申しました。わたくしどもの大学は埼玉県の越谷市と神奈川県の茅ヶ崎市の2つに分か
れておりまして、越谷校舎は教育学部、人間科学部、文学部の3学部がございます。湘南
校舎は情報学部と国際学部、それから短期大学部がございます。なにせ遠隔なものですか
ら、全体の館長はわたくしということになっているんですけれども、わたくしは越谷の方
に所属しておりまして、湘南の方に関しては湘南の館長にやりかたはほぼ任せている、と
いう状況です。いまご報告申し上げましたのはそういうわけで、どちらかというと文科系
が中心である越谷の方に関してでございます。今日ご参集の図書館の中にはもちろん理科
系のところもありましょうから、いろいろ事情は異なるかと思います。
 それからもうひとつ、この資料にあります「情報処理初級カリキュラム」。これは問題を
指摘しておりましたが、もうひとつだけ私が常日頃気になっておりますのは、図書館の職
員が時間をもらいまして──これはそういう計画がございましたときに私が「図書館にも
やらせろ」と申し入れましてその時間を取ったのですが、残念ながらこれは多少違和感が
あるんですね。どういうことかと申しますと、コンピュータに慣れていない学生が1年生
の段階ではまだかなりいるんです。これからは小学校からやっている学生が入ってきます
からよくなるんでしょうけども、現在までのところは、極端なところではキーボードのた
たき方もわからないという学生がいないわけではないんです。そういう学生にはWordであ
るとか一太郎であるとか、Excelであるとか、いかにしてそういうものを使うかというのが
授業の主流になってしまうんですね。そこのところへもってきて「文献検索」などという
ことを図書館員がやりはじめますと、これはこういう学生にとって非常に違和感があって、
飽和状態になってしまうというような状態を抱えています。ですからそれを解消するため
には、図書館は図書館独自にやっていかなければしょうがないな、と、わたし自身は考え
ています。それから、それとあわせてレファレンスのことをこれから重点をおいていかな
いといけないだろうな、というようなことを考えております。
 ちょっとまた長話になってしまいました。いまの藤倉からの報告に関してでも、あるい
は「うちではこうやっているよ」というようなご意見でもご頂戴賜ればよりありがたいの
でございますけれども。なかんずく「メディアセンター」というような格好でいわゆる「図
書館」だけでなくコンピュータ教室といいましょうか、そっちも一緒にやっておいでであ
る慶應義塾大学さんであるとか、出席者名簿を拝見しますといくつかの大学がそういう組
織であるようですが、こういった大学ではいまのいわゆる紙メディアの面と電子メディア
の面をどのように両立させてご指導なさっているのか。それをお聞かせいただければ幸い
です。なにかご意見を頂戴いただけませんでしょうか。

〈慶應義塾大学メディアセンター所長・細野 公男〉

 慶應義塾大学の細野です。名簿では「メディアセンター所長」となっておりますけれど
も、いわゆる「図書館長」で、特に三田のキャンパスを中心にこの仕事をやっています。
慶應の場合にはキャンパスが三田の他にも日吉、湘南藤沢、理工学の矢上、医学の信濃町
というふうにありまして、それ全体の館長でもあるわけですけれども、いろいろなところ
すべてをよくわかっているわけではありませんので、この利用教育、リテラシー教育に関
してもいろいろなことをやっているということもありまして、なかなか全体をつかめてい
ない状況にあります。「メディアセンター」という名前になっていますからいわゆるIT関
係のことというふうにお考えになるかも知れませんけれども、特に三田の場合は文科系で
すからやはり紙メディアというものがそれなりに重要な役割を果たしているわけでござい
ます。ただ、データベースに関してもいまは電子ジャーナルというような形で入っており
ますし、従来のデータベースの検索というものも含めて、いろいろな形で講習・研修を行
っております。三田の場合にはいちおう2年生・3年生以上ということでありますので、基
本的には昔の教養課程に相当する日吉キャンパスである程度基本的なことをやってきたと
いうのを前提としていわゆる図書館利用教育を展開するという形をとっております。
 せっかく今日はこういう席ですので、ご紹介させていただきたいと思います。日吉キャ
ンパスのメディアセンターで編纂しました「情報リテラシー入門1)」という本なんですけれ
ども──これはわたしにも「読んで、内容を理解しろ」と言われているんですが、ちょっ
と忙しくて中身をまだ読んでいないのですが──いちおう日吉メディアセンターは新入生
が対象となりますのでいわゆる図書館とどう付き合っていくかという研修とともにこうい
うふうな本も使ってやっています。それぞれのキャンパスで、いろいろな形でかなり独自
性をもって利用者教育をやっています。そのキャンパスの事情に合わせた形でやっている
という状況でございます。
で、いま報告をお聞かせいただきまして、文教大学の方で一生懸命やっておられるのが
よくわかります。これはいずれにせよそれぞれの大学の事情、あるいはキャンパスの事情
ということがあると思いますので、それぞれの事情にあった形でなさっているといういま
の形がよいのではないかと思いました。

〈司会〉

 どうもありがとうございました。他の大学ではいかがでしょうか。

〈新潟国際情報大学情報センター長:高木 義和〉

 新潟国際情報大学の高木と申します。いま、図書館の情報センター長という役なんです
けれども、所属は学部の方に所属しておりまして、2年生を対象に「情報検索」という授業
をもっています。これとの関係で感じたことを3点ほど述べたいと思います。
 まず、図書館独自でいろいろなさっても、学部との連携がとれていないとその後学生が
活用するのが難しいのではないかと思っています。できれば単位があるような形でこうい
った教育がされると非常に効率が上がるのではないか。というのが1点目です。
 それから、「情報検索」は学部2年生を対象に実施し今年8年目になるんですけれども、
2年ほど前からインターネットの環境というものがたいへん整ってきまして、学生が「イン
ターネットの検索エンジンから得られる情報」と「図書で得られる情報」の質というもの
の違いをまったく認識していないんですね。つまり、例えば「環境問題」「地球温暖化」と
いうような大きなテーマを直接検索エンジンから調べようとするんですね。それなら「図
書で適当な本を探した方がうんと効率的だよ」ということがまったくわからない。今後ま
すますその傾向が強くなると思われるのですね。ですからこの説明をされる前にインター
ネットの情報と図書館にある情報、どう違うんだというあたりをよく説明する必要が今後
ますます強くなるのではないかと思います。
 それから3点目なんですけれども、「情報検索」の授業をやっていて、学生には検索課題
を設定するという能力がいちばん欠けているように思われます。先ほどの「環境問題」と
いうことでも、もう少し細かいところ、基礎的な知識、図書レベルの能力がないまま検索
しよう、情報を探そうということになると、結局何を探しているのかわからなくなってし
まうということがあります。ですから、検索する前にとにかく知識が必要だということを
まず教えて、情報を探すためには「探すための目的と目標を認識した上で情報を探せ」と
いうような教育がかなり必要ではないかというふうに考えています。
 以上3点ほどいままで私が担当していた上で感じたことがありましたのでご紹介させて
いただきました。

〈司会〉

 貴重なご意見ありがとうございました。おそらく大多数の館長の皆様方が感じておいで
になるであろうことではないかと思います。確かに学部その他との関係、それから理事会
の理解はもちろん必要でありますけれども、そういうことですね。
 それから利用する学生たちについてはいま先生がご指摘のとおりでありまして。彼らが
携帯電話でもってしょっちゅうやっているのはまさに「情報の垂れ流し」をそのまま受け
入れて、取捨選択も何もしないでいるというのがその状況であろうかと思いますが、図書
館に来てもインターネットをそういう使い方をするというのが現状かと思います。ですか
ら、本当の意味での「内容をよく理解した知識」というものをいかにして身に付けさせる
か、この意味でも学部の授業との関連が密接なものでなければならないわけです。わたし
どもの大学の学生などは、知識といえばとにかく丸暗記することが知識だと思っておりま
すので、こういうのをやはり授業の中で正していかないと図書館員たちの苦労はいつまで
たっても尽きないというのが現状でございます。他にどなたか──。

〈中央大学図書館長・長崎 健〉

 中央大学の長崎です。
 ちょっと質問させていただきたいのですが、文教大学でカリキュラムの中に職員が担当
するということですけれども、中央大学の場合は、教授会の教学意識が強いものですから、
職員が授業などとんでもないことです。規模は違えど文教とほぼ同じようなことをやって
おりますが、それはあくまでガイダンス。入学式から授業まで二週間ほど時間をとって、
あらゆるガイダンスをそこでやってしまいます。ですから図書館のガイダンスもここでや
るのですが、何しろすごい数ですから大変なんです。
 文教ではどうやって授業を持たせているのでしょう。抵抗感はなかったですか? 昔、
授業をやろうと思って早稲田の例をとって──早稲田の図書館の方が授業をもったという
例があったんですけれども──提案しましたが「とんでもない」ということで、つまり、
教学権に入っていくことになりますからね、結果としては。それへの抵抗感というのは他
の大学でもあるのでしょうか、という質問です。

〈司会〉

 文教大学の例を先にお話させていただきますと、なにも自分の勇を誇るわけではありま
せんが、かなり強引に「入れさせろ」という形で入れました。その際に、先生がいまご指
摘なさったとおりのことがありますので、あくまで現在は「補助員」というかっこうでご
ざいます。それであれば問題はございませんので。中央大学さんほど教授会ではそれほど
問題にはならなかったんですけれども、それは幸いです。他の大学ではいかがでしょうか。

〈明治大学図書館副館長・木谷 光宏〉

 明治大学の木谷です。
 ちょうど先生方のお手元に「研究部報告書」の2001年版があると思います。これに明治
大学図書館の前副館長の斎藤先生が報告されたまとめ2)が載っているのですが、実は明治大
学の場合、図書館職員の方々が授業をもたれるというのに抵抗がございました。そこでま
ず教員と図書館のスタッフがそれぞれの得意分野を分担して、講義と実習からなる授業を
「専門家集団」としていっしょにやろう、ということになりまして、粘り強く周囲を説得
しながら了承を得ました。
 現在、3年目になりますけれども、学生には授業がとても好評で、ほとんど欠席者がいな
い状態です。御茶ノ水のキャンパスと和泉のキャンパスと2つ、前後期に分けて、図書館
のスタッフの方々と教員とがお互いに協力しあいながら、二人三脚で非常にうまくやって
いるという状況です。学生には大変人気が高く、必修科目の一つにしてほしいという声も
あり、有意義な講座のひとつになっています。

〈司会〉

 この研究部報告書を見ますと、いまの明治さんのこと、あと早稲田大学さんでもおやり
になっておりますね。それから、亜細亜大学さんでも。これはおそらくこういうことを最
初にはじめたのは京都大学だと思いますが、いまの総長である長尾真先生がご熱心で、そ
の後早稲田や慶應などあちこちの大学で取り入れられたであったかもしれません。そう記
憶しておりますが。

〈慶應義塾大学メディアセンター所長・細野 公男〉

 だいぶ前からいろいろな形で授業を展開しております。最初はいまのお話にもありまし
たように、教員と図書館員がいわばタッグを組んで行うという形ではじまったと思います。
そういう形での授業は日吉・三田のキャンパスともにありまして、抵抗もなくすっと入っ
てきています。他の形でも「兼任講師」という形で外部の先生にお願いしているのですか
ら、結局、業績の問題ですよね。ですから業績あるいは経験という面で教授会なりで説得
できれば、外部の兼任講師となんら変わりないわけですから問題なく授業として展開でき
ると思います。
 ですから、慶應の場合にはそういう面でいまも問題は全然ありませんし、ごく自然な形
で授業がなされていると考えてくださればよろしいかと思います。

〈司会〉

 いまの件、他にもいろいろお聞かせを願いたいのですが、先ほど、もうひと方からも挙
手がありましたので、どうぞお願いします。

〈静岡文化芸術大学図書館・情報センター長・藤沢 二三夫〉

 静岡文化芸術大学の藤沢と申します。
 わたくしどもの大学は2年ほど前に設立したばかりなものですから、学生もフルメンバ
ーでなくて1年から3年生までしかいない後発大学です。ですから今日は「うちの大学の
事情を紹介する」というよりも学び取るために来たのですが、実態を簡単にご紹介したい
と思います。
 私どもの大学は、文科系とデザイン系の2学部があります。いずれの学部学生も
Information Retrievalといいますか、情報検索というのは今後の研究活動、あるいは研究
の展開に際してどうしても必要不可欠なものであり、情報リテラシーとかけ離れた学生生
活・研究生活というのは考えられないということで、1年次には全学全員必須科目として、
「情報処理I」という形でワープロ・パソコンの取り扱い、簡単なデータ・プロセッシン
グ、情報検索と教えております。2年、3年となりますと、デザイン系はCAD、CAMであ
るとかあるいは関係する画像処理・映像処理に取り組む学生もいるものですから、専門的
な科目としてコンピュータに取り組むということをしております。
 4年生になると卒研がはじまりますので──まだ取り組んではいないのですが──情報
検索なしで卒研をやるというのはとても考えられないので、これから検討していきたいと
いうふうに思っています。
 その場合のひとつの悩みとしては、現状として図書館に検索用の端末があるわけですけ
れども、専用機で24台くらい、その他全部で70台くらいあり、手取り足取りで図書館職
員が教えているのですが、なかなかその指導が思うに任せない。市立図書館などに行くと
マンパワーがあるからか、非常に親切に教えてくれるんですけれども、大学はそこまでの
余裕はなくて、学生が独力で取り組んでいるというようなことがあります。
 職員の数についても悩みがあるのですが、蔵書の数だとか学生・先生方の頭数、あるい
はその利用率といったものから図書館の体制・体質をつくっていくと、職員数というのは
どれくらいがいったい適切なのかという目安が実はつかない。
 実はわたしもこの4月に就任したばかりですから、これからどうしたものかな、という
ことで考えあぐねているところであります。
 以上、わたくしどもの大学の実情だけ紹介させていただきました。

〈司会〉

 次の行事の講演会もございますので、そろそろ閉会の準備をしなくてはいけないんです
けれども、先ほど新潟国際情報大学の高木センター長からもご指摘ございましたように、
われわれはとかく「IT」「IT」ということでそちらの方ばかり目を向けてしまいがちですが、
やはりそれらを運用していくためのいちばんの基礎としては、「従来の紙メディアをいかに
使いこなすか」ということが行われないとどうにもならないということですね。学生──
あるいはわれわれ研究者にとってもそうですが──いわゆる「図書」の扱いが十分できな
い者がパソコンをいじくってみたところで、おそらく何もでてこない、無目的なものにな
ってしまう危険はいつでもはらんでいると思うんですね。ですから、そのことをどうやっ
て解決していくかということは、今後とも大きな課題であろうと存じます。その辺のとこ
ろでわたしどもは先進の諸大学に今後ともいろいろお教えくださることがあればありがた
いな、と思っております。
 まだあと少しだけ時間がございます。最後になにかひとことございましたらどうぞ。

〈武蔵工業大学図書館長(環境学部)・岩村 和夫〉

 本学(武蔵工業大学)図書館長の岩村です。
 お手元に資料を2つほどお配りしてございます。ひとつは先日出たばかりの紀要第3号
でございまして、この中で環境情報学に関してわれわれの考えるところを、特集としてま
とめました3)
 その中にはいまのテーマにありました情報リテラシーの問題、それから環境と情報とい
うのはどういう分野なのかということについて、最近は「情報エコロジー」という言葉が
にわかに出てまいりまして──これは後ほどの講演の中でも触れたいと存じ上げておりま
すが──それに関連した記事が何本か載っております。
 それから、A4の抜刷ですが、これはわたくしどもの大学の中で、情報リテラシー教育を
どのようにしているかということを、武山先生の論文4)という形でごらんいただいておりま
す。これはまさにいま皆様が仰ったようなことに関連しているのですが、わたくしどもは
環境と情報という二本立ての学科構成になっておりまして、私は特に環境デザインを担当
しておりますのでできるだけ「身体を通した環境の理解」というのでしょうか、リテラシ
ーに向かうときも人間の身体が元にあって、そのインターフェースをどのようにデザイン
していくか、ということがとても重要だと考えております。わたしは建築の出身ですので
建物をどういうふうにそういう観点から作っていくかというところに関心がありますけれ
ども、学生たちにはできるだけフィールドワークとグループワークを通して環境あるいは
情報のリテラシーというものに向き合ってほしい、というようなことをできるだけやるよ
うにしています。そうしますと、情報リテラシーなり情報のトゥールが「人間のどういう
部分を代替してくれるのか」ということを理解してもらうかということが一方でございま
す。それと、人間の身体でいったい何ができるのか、実際に悩みながら、あるいは悩みを
感じてもらいながらやってもらうというのがひとつのテーマになってございます。
 わたくしどもは「メディアセンター」という形になっておりまして、その中に図書館が
位置づけられております。ですからその中に常に教授等が待機しておりましてできるだけ
多角的・立体的な形で情報リテラシーに向かい、あるいは使いこなし、プレゼンテーショ
ンをする、というようなプロジェクトを立ち上げながらそういうことを体験させていきた
いというふうに考えてございまして、まだ2回しか卒業生を出しておりませんので、まだ
大きなことは言えませんが、そういうような事情の中で日夜議論を続けているところでご
ざいます。その一端がその文章からごらんいただければというふうに思いましてお配りい
たしました。

〈司会〉

 ありがとうございました。実は、いま配られた武山先生の論文をはじめ何点かの論文の
抜刷を私は事前に拝見していまして、たいへんおもしろく読ませていただいたのですけれ
ども、そのこともあったので、岩村先生にはぜひ最後の締めくくりを、と思っておりまし
たら先を越されてしまいました(一同笑い)。
 さて、今日のまとめというようなことはできません。いろいろ多岐にわたりご意見を頂
戴しました。いずれまとめあげた上で先生方のお手元までお届けしたいと存じます。
 冒頭に申し上げましたようにいろいろ準備不足であることは歴然でございますけれども、
せっかくこうして立ち上がったわけですから、できれば隔年にでもこの館長会というもの
を継続してくだされば幸いだと存じます。この次はそちら側の席に参加者あるいはオブザ
ーバーとして参加させていただくかたちになりますが、ともかく自分の非は棚に挙げて申
すようで恐縮ですが、事前に準備を重ねられてぜひおもしろい会議として継続していただ
ければ幸いです。
 ということで、本日の会はこれで閉会とさせていただきたいと思います。ご協力どうも
ありがとうございました。(拍手)


● この館長会で紹介された文献

1)慶應義塾大学日吉メディアセンター編『情報リテラシー入門』東京, 慶應義塾大学出版
  会, 2002.


2)斎藤晢“大学図書館の利用者教育を考える−明治大学における『図書館活用法』講座の
  実践の中から”『私立大学図書館協会東地区部会研究部報告書』2001年度, 2002.3,
  p.61-64


3)『武蔵工業大学環境情報学部情報メディアセンタージャーナル』第3号, 2002.4
  (
http://www.yc.musashi-tech.ac.jp/~cis/cisj/2002journal/vol3.html

4)武山政直“環境探索型プロジェクトワークを通じた情報リテラシー教育”『武蔵工業大
  学環境情報学部情報メディアセンタージャーナル』創刊号, 2000.4, p.14-19
  (
http://www.yc.musashi-tech.ac.jp/~cis/cisj/2000journal/1-5.pdf