JASPUL-CILC

UPDATE:2003/03/01

 

Gai-Atsu: ARL, SPARC and the Transformation of
Scholarly Publishing
ガイアツ:ARL、SPARC、そして学術出版の変革


ジェームズ・G・ニール
コロンビア大学(ニューヨーク市)副総長
(情報サービス担当兼図書館長)


私立大学図書館協会国際図書館協力シンポジウム
早稲田大学
2001年5月31日
(日本語訳 中元 誠)

 

 デイビッド・クローズは、彼の著書『革命の意味』のなかでこのように述べています。「革命についての主要な感覚は革命のもつ大洪水のような性質に由来しています。というのも革命は人々の安全を破壊し、彼らの信念を動揺させるからです。」私たちは学術活動を以下のように定義づけています。すなわち、知識の創造とその確実性の評価、情報の保存とそして情報の他者への伝達です。学術出版を支える技術、経済、そして組織・機構は、技術の革命的な発達と学術プロセスの経済によって劇的に変容をとげつつあります。

 学術図書館は現在の学術コミュニケーションにかかわる環境について以下の4つの課題を一貫して前進させてきました。

・情報の価値とそこにかかるコストとの関係において情報の価格に不均衡が存在します。私たちはあまりに多くを支払っています。

・著作、審査、そして出版と流通のあいだには時間差が存在します。これにはあまりに時間がかかっています。

・著作、著作権、そして所有権において不均衡が存在します。私たちはあまりに多くを譲歩しています。

・これらの課題は重要な公共政策上の課題としてとらえられてはいませんでした。

 学術図書館は、出版環境が再構築されるにともなって、以下の核となる課題を提示してきました。すなわち、競争的な市場の必要性、教育・研究のための再利用と簡易な物流の保証、革新的な技術の適用、品質の保証、そして恒久的な保存です。

 研究図書館協会[以下ARL]は学術コミュニケーション事務局の活動をつうじて学術情報の生産、流通とその利用にかかわる諸要素について理解をふかめ、それに働きかけるよう努めております。この事務局は、とりわけ学術研究活動の記録と流通に関して進化を続ける電子技術の適用をつうじて学術的な知見を分配するための革新的、創造的かつ妥当な方法を模索しております。また、電子的な学術コミュニケーションに代表される諸課題にかかわる共通理解の構築や学術コミュニケーションシステムの変革にむけた戦略の構築などにかかわり学術コミュニティーの他の機関とも協力をすすめています。

 ARL学術コミュニケーション事務局は以下の2002年活動方針を定めました。

公共的な利益を支援するための学術研究の知見の流通を主要な目的とした学術コミュニケーションシステムの変革にむけた戦略の模索と構築

・学術出版を支援し、審査を経た結果をだれでも無料で利用することを可能とする購読契約に拠らない経済モデルを模索すること

・学術情報にたいするより広範なアクセスを提供することを目的として機関によるアーカイブの設置とオープンアーカイブイニシアチブを推進すること

・個々の研究者が自分の研究教育活動のためにみずからの論文を利用する権利を有すること、また、研究者がみずからの論文を誰でも利用が可能なオープンアーカイブに公開する権利を有することを推奨すること

・大学がその所属する研究者の学術的成果を機関の保存装置で管理することを推奨すること

・学術的成果の新たなジャンルの評価を可能とし、出版される雑誌から学術的成果それ自体の価値を分離する可能性をもった電子的環境におけるpeer reviewの新たな手法の開発を促進すること

・研究成果の流通にかかわる援助を連邦政府から獲得するための戦略を米国大学協会(AAU)とともに構築すること

・学術コミュニケーションシステム変革にむけた学術コミュニティーにおけるより広範な連携を継続すること

・各大学、および『Op.Cit.』(2001年3月にナイト高等教育財団と全国人文学基金の資金援助とARL、全国人文学連合(NHA)により開催された人文・社会科学における学術コミュニケーションに関するナイト高等教育ラウンドテーブルの成果)にかかわる学術団体において、背景的な説明資料をさらに整備し、議論をキャンパスや学術団体で展開すること

・『Create Change』ウェッブサイトの充実をさらにはかること、また、図書館や研究者の学術コミュニケーションシステム変革にかかわる関心をたかめるために学術コミュニケーションのウェッブサイトもより充実をはかるべく再構築をはかること

・あらたに形成された国際学術コミュニケーション連合とともに、国際的な視野からの学術コミュニケーションの課題にたいする行動計画を構築すること

・インディアナ大学とともに科学者の情報検索行動にかんする会議を開催すること

・知的所有と著作権にたいする共通の理解を促進すること

・現行の許可制度にかかる形式を再評価し、オンラインによる許可制度の可能性について検討すること

・著作権(所有権とその利用の両面)とそれが学術コミュニケーションシステムにたいしてもつ決定的に重要な関連性について研究者と図書館員を啓蒙することを目的とした資料を開発すること

・米国出版社協会(AAP)、コピーライトクリアランスセンター(CCC)、米国大学出版局協会(AAUP)そしてAAUとともにキャンパスにおける著作権にかかわる小冊子の刊行にむけた連携を継続すること

・学術コミュニケーション委員会および著作権ワーキンググループの代表とともに学術コミュニティーの最大限の理解のために、知的所有権の管理にかかわる戦略と5ヵ年行動計画の策定をさらにすすめること

・図書館員と研究者の関心をさらにたかめること

・増加する出版産業の吸収合併に関して図書館が警戒感をいだいていることを反トラスト当局に知らしめる努力を継続すること

・図書館コレクションのより有効な管理、反トラストの議論の支援、学術コミュニケーションにかかわる教育的なイニシアチブの形成などに必要とされる情報を図書館にたいして提供することを目的として、データコレクションの形成とその維持のための連携の枠組みを構築すること

・学術コミュニケーションにかかる課題を例示として、『Framing the Issues』のような[広報]モデルを製作し、メディア、高等教育関連機関にたいして研究図書館に関する重要な課題にかかわる情報を伝達すべく、ARLコミュニケーションプログラムの担当者とともに、ARLスタッフや図書館長を支援すること

 学術出版と学術資源連合(SPARC)は学術コミュニケーションシステムにおける市場の機能不全にたいして積極的な対応を構築することを目的とした大学、研究図書館や組織の連合体です。こうした機能不全は、学術流通を提言し、図書館に障害を与えてきました。SPARCは、研究者や学会の要望に対応してネットワーク化されたデジタル環境における情報の流通と利用を拡大することを目的としたシステムを創造することを支援し行動にむけたひとつの触媒として活動しています。

 SPARCの行動計画は審査を前提とした学術活動にたいして広範で効率的なアクセスを提供することに焦点をあてています。この目標は3つの戦略的な要素から追求されています。

・現在の高価格な商業雑誌およびデジタルアグリゲーションにたいする競争的代案のインキュベーション。こうしたインキュベーションは、出版社とのパートナーシッププログラムや、支援活動によって実現します。出版社とのパートナーシッププログラムや支援活動は、著者と購買者のために競争を促進し、伝統的な雑誌のビジネスモデルにたいする代案を提示し、さらに学術出版活動全体にたいする非営利セクターのシェアの拡大を刺激します。

・学術コミュニケーションにかかわるシステムや文化における基盤的な変革にむけた広報。こうした広報は、すでにすすめられている主要な課題やイニシアチブの広報と同様に、多彩なグループ(たとえば図書館員、研究者、エディトリアルボード、高等教育管理者や研究資金支援団体など)にむけて行われます。また、広報は、変革の可能性にむけた広範な関心を呼び起こし、研究者を行動にむけて勇気づけ、SPARCによる出版パートナーシップの影響力をより大きなものとしています。

・学術コミュニケーションにかかわる課題にたいする注意を喚起し、学術コミュニケーションプロセス全体にかかわる機関および学術コミュニティーの役割と統制の拡大を支援する目的で行われる教育的キャンペーン活動

 1998年6月の公式な活動開始以来、SPARCは、この行動計画を以下のとおりすすめてきました。

・新規の雑誌が著者のためにうまく競争的役割をはたし、迅速に質を確立しうることを立証

・雑誌にかかるコストを効率的に低減

・雑誌の営利性の側面において編集者やエディトリアルボードのメンバーの要求がより大きな役割をはたす環境の創造

・非営利セクターにおける出版能力拡大の促進と、市場への新規プレイヤー参入の奨励

・変革を求める科学者や図書館員にたいする指導と支援の提供
そして、
・国際的な視野からの変革へのメッセージと手法の伝達

今日、SPARCのメンバーは、北米、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアに約200機関に及んでいます。現在、SPARCは、ヨーロッパ研究図書館連盟(LIBER)や他のヨーロッパの諸機関と連携しながらSPARC Europeの設立しようとしています。また、日本における同様のイニシアチブの可能性について模索を続けています。SPARCは、また、オーストラリア、カナダ、デンマーク、ニュージーランド、イギリスとアイルランド、そして北米における主要な図書館団体と関係をもっています。

 SPARCは、非営利・非課税団体であるARLの組織的な傘のもとに運営されています。SPARCの資金は、ARLの資金とは別に運営されており、SPARCは、ARLの資金的援助に依存していません。

 SPARC運営委員会は、すべてのSPARCメンバー団体の広範な代表によって構成されます。メンバー団体には、ARLメンバー館(SPARCメンバーの約半数)以外の団体も含まれます。2002年の運営委員会では、カナダとヨーロッパのメンバーからそれぞれ1名が委員として指名されました。その他の5名の委員は、投票権をもったSPARCのメンバーから選挙されました。SPARCの事業部長は、ARLの理事長にたいして報告義務をもち、SPARC運営委員会の監督のもとに運営責任をもっています。

 SPARCは、市場にたいして広範な影響を与えたいくつかの重要な業績を示すことができます。

・市場におけるSPARCの成立と活発な活動は、出版社にたいして大きなシグナルを送りました。つまり、毎年の価格の上昇は出版社の将来にわたる成長計画においてはるかに小さな役割しかはたさないに違いないということです。世界中の数千に及ぶ図書館において、このことは、比較的短期間の枠組みにおいて総体として数百万ドルの節約をもたらすことになります。

・SPARCは、科学者や研究者にたいして学術コミュニケーションの機能不全の深刻さを明らかにしました。事実、SPARCの名前があるところでは、問題は存在しており、その解決は可能であることが想起されます。
・BioOneの成立は、利益を共有する図書館と学会とのあいだで革新的で目に見える連携のための枠組みが可能であることを示しました。BioOneでは、また、SPARCの課題にかかわる広範な関与の必要性に、数多くの小規模な学会がかかわることになりました。そして、生物学の分野においては、学会と商業出版社とがことなる目的をもつことについての理解をふかめることになりました。成功が明らかになるにつれ、BioOneは、他のベンチャーのひとつのモデルとなるかもしれません。

・SPARCの活動が拡大することは、また、大学学長にたいする有益な印象を与えています。たとえば、2001年4月のAAU学長会議では、SPARCは、学術出版における進行する市場圧力に対応する図書館指導者の決定と成功を示す事例として引用されました。SPARCは、こうした関係に優先順位をつけ、今後とも学術研究機関・団体との関係の拡大に努める所存です。

・SPARCが財政的な支援とACRLにたいする組織的な橋渡しの役割をはたすことによりARL学術コミュニケーション事務局は『Create Change』プログラムをより迅速にかつ広範に展開することが可能となりました。また、このことによりARLが(限られた資源で)単独で活動するよりもはるかに内容の豊かなウェッブサイトとすることが可能となりました。SPARCメンバーの61%がすでにそれぞれのキャンパスで『Create Change』プログラムを開始するかもしくは開始を計画しています。また、このことは、私たちの課題にたいして実質的に数多くの科学者がかかわっていることを示しています。

 これらの成功に貢献した2001年の活動について以下に示します。

雑誌の営利性の側面におけるエディトリアルボードの統制の拡大

学術コミュニケーションにおける科学者の統制の拡大のためにSPARCがとったひとつの主要な戦略は、エディトリアルボードが雑誌の収益政策の決定により広範な役割を主張することを奨励することです。この戦略は、2001年1月にSPARCがTriangle Research Libraries Networkとの連携により開始された『Declaring Independence』イニシアチブによってさらにすすめられています。『Declaring Independence』は、エディトリアルボードにたいして彼らの雑誌それ自体を評価し、もしも認められるならば、変革は出版社とともに作りだすこともできるし、あるいは、エディトリアルボードそれ自体が別の出版社に移行することを推奨しています。

 『Declaring Independence』を推進するうえで主要な手段は、SPARCが開発したハンドブックと関連するウェッブサイトです。このハンドブックはSPARCにより、高価格の雑誌のエディトリアルボードのメンバーに送付され、また、図書館のスタッフにより、キャンパスにおける学術コミュニケーションの部分を占める編集者にたいして配布されました。『Declaring Independence』に掲げられた諸課題とハンドブックやウェッブサイトからの情報の提供はSPARCの広報(ハンドブックの印刷版であるJournal of Electronic Publishingにおける論文を含めて)において世界中でかいさいされる諸会議で利用されています。『Declaring Independence』ハンドブックは、現在ドイツ語に翻訳中ですが、SPARC Europeのネットワークが拡大するにつれて、さらなる展開の好機が模索されることになるでしょう。

 変革をめざすエディトリアルボードによる効果的な行動を支援するためにSPARCは、コンサルタントサービスを提供しています。このサービスによって、編集者は、多様な出版の可能性と、彼らの評価にもとづいた出版資源の再配分を認識することが可能となります。こうした活動がひとつの新しい雑誌の創刊に到達したとき、SPARCは、出版社とのパートナーシッププログラムをつうじて意義あるプロジェクトとして支援することになります。

 2001年において確立されたいくつかのあらたな出版パードナーシップは(迷いから覚めた高価な商業タイトルの編集者によって開始されたのですが)、雑誌にかかわるエディトリアルボードに力をあたえていることを示しています。これらにはAlgebraic and Geometric Topology (University of Warwick, U.K.), Journal of Insect Science (University of Arizona Library), Journal of Machine Learning Research (MIT Press), Theory and Practice of Logic Programming (Cambridge University Press)などが含まれます。

高価なSTM雑誌に対する実行可能な代案の創造

 SPARCは、北米および世界で学会、大学出版局、機関による出版イニシアチブ、独立出版ベンチャーを支援することによりパートナーシッププログラムの拡大に努めています。こうしたパートナーシップはすでに確立された高価格の雑誌やアグリゲーションにたいして低価格で学術コミュニティーの統制による代案の発展を支援しています。パートナーシッププログラムの影響力については、2001年9月に開催された学協会出版協会においてSPARCが『Service to Not-for-Profit Publishing Award』を与えられたことからも再認識されています。

 SPARCの市場の変革にむけての焦点は、結果を示すことの重要性にあります。過去におけるいくつかの展開は、SPARCの援助によってすすめられた新たな出版の影響力において明らかです。

・2001年のISI Journal Citation ReportsによるとSPARCのパートナーであるOrganic Lettersがインパクトファクターにおいてそのおもな商業的競合誌であるTetrahedron Lettersを上回りました。Organic Lettersが有機化学分野においてインパクトファクター3.367で7位となったのにたいして、Tetrahedron Lettersは、インパクトファクター2.558で13位にとどまりました。2000年の比較において、Organic Lettersは、第2巻(26号)を刊行したことにたいして、Tetrahedron Lettersは第41巻(52号)を刊行しました。年間100論文以上を刊行した雑誌を評価すると仮定すると、ISIのデータはOrganic Lettersがインパクトファクターにおいては第2位となることを示しています。(同様にACSの刊行物であるJournal of Organic Chemistryは、有機化学分野全体でインパクトファクターにおいて第1位となります)Organic Lettersは、SPARCにおける最初の出版パートナーとなりました。

・もしもTetrahedron Lettersが1995年から98年にかけての価格上昇(年15%増)を続けたと仮定すると、現在では1万2千ドルになっていると考えられます。しかし、Organic Lettersの刊行により急勾配な価格上昇は平準化され、現在、図書館は、このふたつのタイトルを1万1千5百ドルで購入することができます。

・Kluwer社が最近、Evolutionary Ecologyの価格を下げたことは、図書館がプリント版のEvolutionary Ecology(467ドル)とEvolutionary Ecology Research(272ドル)で購読できることが可能となったことを意味します。これ[467ドル+272ドル]はKluwer社のタイトル[Evolutionary Ecology]の以前の価格より38ドルも安い価格です。

・Elseviers社のJournal of Logic Programmingのほとんどの著者はSPARCの支援するTheory and Practice of Logic Programming(TPLP)へと移動しました。このことはコンピュータ科学者がTPLSを論理プログラミング分野における研究をカバーする主要な雑誌として認識したことを示しています。TPLSは、Elsevier社の雑誌で以前にエディトリアルボードをつとめた50名の編集者によって2001年に創刊され、すぐに強力な論文提出の流れを作りだしました。TPLSは、定期隔月刊行のスケジュールを定め、この雑誌が先端研究の成果の刊行を継続できるだけの十分な原稿を蓄積するにいたっています。SPARCの支援により、TPLP創刊までの経緯はNew York Timesを含めてひろく報道されました。TPLPの編集者のひとりであるモーリス・ブリュノーグが2000年の専門図書館協会図書館の『Physics-Astronomy-Mathematics Division award in 2000 for service to libraries』を受賞したことは、TPLPがその創刊の当初より大きな影響力をもっていたことの証であるということができます。

・高価格の商業誌に対抗して、いくつかのSPARC誌は、無料で入手が可能となっています。仮に、もっともおおきなSTM出版社が価格において新たな見直しを行ったとしても、図書館は、無競争で支払っていた金額よりも安価に、これら両方の雑誌を入手することができるようになりました。

機関による電子出版イニシアチブへの支援

研究成果の広範な流通のために学問分野や機関を単位としたサーバの設置・開発に努力している図書館があります。このことは、情報の価値の連鎖における図書館の役割の拡大をはかり図書館と研究者とのより密接な関係の構築をすすめる一方で、学術コミュニケーションのおける変革をすすめるうえで、有効な手段となるかもしれません。

 これを支援する目的で、SPARCは、現在、有効とされる初期的なビジネスプランの展開をすすめるうえで、機関や小さな学会を基盤とした出版ベンチャーを援助するウエッブ資源の整備をすすめています。こうしたコミュニケーションイニシアチブは、SPARCの活動と影響力の範囲を効果的に拡大するばかりではなく、こうした事業を開始しようとする機関が、他の機関の経験に学んだり、学習する期間の短縮にもつながっています。このイニシアチブは、また、『Declaring Independence』とともに一対の関係となります。この新たなイニシアチブは、いま仮に『Gaining Independence』としておきますが、ステップバイステップのガイドとしてビジネスプランの創造をつうじて競争力をもち、存立可能な新たなサービスの確立を支援してくれることになります。開始は、2002年の4月を予定しています。

 また、SPARCはオープンアーカイブイニシアチブ(OAI)への支援をつうじて、機関による出版事業の奨励も継続しています。OAIにおけるさまざまな広報事業の支援に加えて、SPARCは、2001年春にジュネーヴで開催されたオープンアーカイブ会議開催の費用の一部を負担しました。

 SURF基金がオランダのズヴォーレで開催したキャンパスにおける知的所有政策に関する国際会議にSPARCは参加しました。

 SPARCは、機関によるいくつかの出版プロジェクトを2001年のSPARCパートナーシッププログラムとすることにしました。プロジェクトにはAlgebraic and Geometric Topology (University of Warwick, U.K.), Documenta Mathematica (University of Bielefeld, Germany), Journal of Insect Science (University of Arizona).が含まれています。

BioOneの成功とその継続

 BioOneは、2001年3月にサービスを開始、その年の9月には46誌と契約し、予定どおりの購読基盤を確立しました。SPARCは、2001年をつうじて財政計画とマーケティングに関して指導的な役割をはたしながら、資金的、戦略的、戦術的な支援をBioOneにたいして行いました。

BioOneの成立は、利益を共有する図書館と学会とのあいだで革新的で目に見える連携のための枠組みが可能であることを示しました。BioOneでは、また、SPARCの課題にかかわる広範な関与の必要性に、数多くの小規模な学会がかかわることになりました。そして、生物学の分野においては、学会と商業出版社とがことなる目的をもつことについての理解をふかめることになりました。成功が明らかになるにつれ、BioOneは、他のベンチャーのひとつのモデルとなることが期待されます。(実際のところ、いくつかの図書館を基盤としたプロジェクトのモデルとなっています。)そのうえ、BioOneは、他の分野にたいする拡充の基盤を形成するとともに、実験のための生きた研究室となり、図書館にとって重要な新たな規格を提供することとなるかもしれません。すでにBioOneは、いくつかのあらたなアーカイビングプロジェクトとの連携を開始しています。

 SPARCのBioOneへの積極的な参加は、BioOneのもともとのコンセプトが最初にかたちづくられた1999年3月にさかのぼります。リック・ジョンソン、アリソン・バックホルツ、ジュリア・ブリックスラッド、そしてハワード・ゴールドスタイン(ARLコンサルタント)は、いわば創立組織の事実上の経営チームとしてBioOneのワーキンググループメンバーとなっています。ジョンソンと、現在ARL会長であるシャーリー・ベイカーは、BioOneの理事会メンバーとなっており、ブリックスラッドは、BioOneの会計担当代理を務めています。

支援の一環として、SPARCは、2001年をつうじてさまざまなBioOneのサービスや活動に資金的な援助を継続しました。これらの援助には、コンサルタント費用や広報などの費用が含まれます。また、BioOneのオフィスはARLの施設内に設置されています。

学術コミュニケーションにかかわる研究者の関心の喚起

 研究者と図書館の幅を拡大するための手段として、SPARCといくつかのヨーロッパにある支援団体は、2001年7月にSPARC Europeを設立しました。LIBERは、7月に開催された年次総会で全員一致でSPARCのヨーロッパにおける組織の傘になることを決定しました。初期的な資金援助が以下の機関から行われました。Consortium of University Research Libraries (CURL) in the U.K.; Joint Information Systems Committee (JISC) in the U.K.; Society of College, National, and University Libraries (SCONUL) of the U.K. and Ireland; UKB, the Netherlands research libraries cooperative, in collaboration with IWI, SURF Foundation program for innovation in scientific information supply。これらの機関は、SPARC Europeのために2年間の基本的な運営資金を保証しています。加えて、SPARC本部のオフィスがSPARC設立のヨーロッパのメンバーのもとへと移転しました。2002年から03年にかけて、ヨーロッパにおける機関メンバーの拡充をはかり、SPARC Europeにおける2004年ないし(必要ならば)それ以降の活動に必要な基盤を構築することが想定されています。

 過去数ヶ月にわたり、SPARCは、以下の活動を展開しています。

・SPARC Europeワーキンググループと行動計画を組織すること

・SPARC Europeのための組織的・財政的な基盤を構築すること

・ヨーロッパにおけるイニシアチブ確立にむけディレクター募集のための委員会を組織すること、また、募集活動を開始すること

・諸会議における広報・情報素材を準備し、配布すること

・SPARC Europeのデータベース、メーリングリストを整備すること

・SPARC Europeのウェッブサイトを立ち上げること

・すでにSPARCメンバーとなっているヨーロッパやイギリスのメンバーをSPARC Europeへ移籍すること

 SPARC Europeは、オープンソサイエティー研究所/ソロス財団とともに、非公式なかたちでSPARCの広報素材の翻訳と配布が可能かどうか議論をすすめています。そこでは、また、SPARCによる出版事業のパートナーシップがヨーロッパ地域や、ほかのSPARC Europeのメンバーにはなれそうもない途上国地域を対象として可能かどうかについても議論がすすめられています。

 SPARCは、『Create Change』キャンペーンを積極的に展開しています。このキャンペーンは、カナダ(英仏二ヶ国語による)やイギリスでも展開されています。SPARCは、現在、ヨーロッパ地域での関心のある個人や機関と共同で活動をすすめています。『Create Change』は、学術コミュニケーションにおける変革について研究者や図書館員の理解をふかめることを目的として作成された冊子ないしはウエッブ情報です。このキャンペーンはSPARC、ARL/OSC、そしてACRLの協力のもとですすめられています。

SPARCの管理・運営の刷新

 3名の運営委員会委員の任期が2001年末で終了しました。カナダおよびヨーロッパから代表がそれぞれ1名、運営委員会委員として指名され、のこりの委員については投票権をもったSPARCメンバーから選挙が実施されました。現在、新たな運営委員会が、活動しています。

進行中の広報活動

・SPARC e-ニュース:SPARCは、隔月単位でSPARCメンバー、支援者、そしてメディアにたいしてe-ニュースの配布を続けています。配布リストは、現在、全体で1500名以上となっています。E-ニュースの『産業ニュース』セクションでは、学術出版市場の最近の動向についての分析をもりこみ、内容の拡充に努めています。E-ニュースではportal: Libraries and the Academy (Johns Hopkins University Press)との非公式な提携により、SPARCコミュニティーにとって関心のある論文の抜刷りを提供することになっています。

・SPARCのウェッブサイト:SPARCは、2001年、そのウエッブサイトに新たな特徴を付け加えました。それは、代替的出版事業にかかわる拡張版の『リソース』リストを含んでいます。

・広報活動:SPARCは、主要な学術および図書館関連の出版物にたいして広報キャンペーンを展開しています。これらの出版物には以下のタイトルが含まれますが、これに限定されているわけではありません。New York Times, Science, Chronicle of Higher Education, Nature, Professional Publishing Report, Wired.com, Times Higher Education Supplement (U.K.), Library Journal, Library Journal Academic Newswire

・SPARCフォーラム:SPARCは、ALAの夏および冬の会議において、半年に1回のSPARCフォーラムを開催しています。それぞれのSPARCフォーラムでは、当面の新たな課題について報告があり、図書館に関連する課題がテーマとして組織されます。

・SPARC展示:SPARCは、2001年においてALA(夏および冬)、IFLA、そしてACRLの大会において展示を行いました。

・SPARCにかかわる論文:SPARCは、SPARCと学術出版システムにかんする論文の執筆・発表に継続して努力しています。たとえば、こうした論文が最近掲載された、もしくは、近く掲載予定の雑誌は以下のとおりです。Nature.com, Journal of Electronic Publishing, LOGOS, INASP Newsletter (International Network for the Availability of Scientific Publications)。加えて、SPARCは、運営委員会と協力して、学術コミュニケーションに関連する論文の編集、発表にも努力しています。最近刊行されたものとしては以下のものがあります。Against the Grain (Carla Stoffle) や D-Lib (Ken Frazier)。

・SPARCにかかわる講演活動:SPARCのスタッフと運営委員会委員は、地域から国際的な集会、会議において講演活動を続けています。2001年のスタッフによる講演活動としては、SUNY Albany, Old Dominion University, College of William and Mary, University of Pittsburghなどです。SPARCの講演を担当する事務局では、キャンパスにおける学術コミュニケーションにかかわるシンポジウムの講演者の手配などでおおくの機関で援助を行いました。また、SPARCからの講演者は、以下の学会等にも参加しました。American Society of Limnology and Oceanography Aquatic Sciences Meeting, Association of American Medical Colleges Council of Academic Societies, Special Libraries Association Mathematics Rountable, LIBER annual conference, Open Meeting for the Higher Education Community in London。

・メンバーの拡大:以下に述べますとおり、ARLとARLには属さない図書館が強力かつ急速な度合いで加わってきた結果、北米のおけるSPARCメンバー数は、急速に拡大をとげ、安定しています。1999年末では、116のメンバーと7の賛助メンバーでした。2000年夏の終わりには、193のメンバーと8の賛助メンバーとなりました。2001年夏の終わりには、201のメンバーと8の賛助メンバーとなりました。SPARCの正規メンバーは、それぞれSPARCが支援するパートナーによる出版物にたいして年額7千5百ドルの購読会費を支払い、現在、149機関から年間で百十万ドル以上におよんでいます。23の図書館を代表するふたつのコンソーシアからは、さらに追加の購読会費が支払われます。2000年4月に追加された国際援助メンバーのカテゴリーでは、すべてのメンバーカテゴリーのなかでもっとも成長が著しくなっています。このカテゴリーでは、北米以外の機関からのSPARCへの参加を認めており、年間千ドルの会費以外に購読会費を支払う義務を負いません。2001年夏に、SPARCは、援助メンバーカテゴリーの最低会費を千五百ドルから千ドルに値下げをしました。

 ヨーロッパにおけるすべてのSPARCメンバーと賛助メンバーは独立したSPARC Europeへと移籍をすることになりました。このことにより、ヨーロッパにおいて独自の基金によるイニシアチブの展開が可能となりました。

 2001年、SPARCは、過去3年間におよぶその活動の有効性について評価を行いました。以下に述べる2002年の計画では、SPARCの運営委員会によるメンバー調査と戦略的計画の立案努力をふくめたこの評価活動をふまえ、進化する市場にたいする私たちの理解をさらにふかめています。

 SPARCは、現在までのところ、雑誌価格のもっとも高価な科学、技術、医学分野に限った活動を展開してきましたが、今後は、積極的な貢献が可能と思われる場合には、社会科学や人文学の分野でのプロジェクトの展開もあるだろうと考えています。こうした展開によって、SPARCの変革へのメッセージを理解し、行動しようとしている研究者へのよりよい支援活動が可能となると考えています。ここでの積極的な役割を演ずるためのターゲットをしぼったある計画を、2002年に開始する予定です。

運営の方針

競争的代案のインキュベーション

 2002年の活動においては、SPARCの価値を体現する革新的な出版イニシアチブにたいする実際的な支援の拡大に重点がおかれます。こうした支援により出版計画が成功に導かれ、市場参入にたいする障壁がのぞかれ、利用可能な資源の有効な利用が可能となり、他のプロジェクトの参考となる教訓が得られることをめざしています。2002年の活動では以下のようなイニシアチブに重点をおいています:

1.機関を単位とした研究者の成果を保存するための装置の開発・設置の奨励。SPARCは、大学や図書館と協力して、情報の[新たな]流通(たとえば、機関や分野を単位としたサーバ)とこれに必要とされる[新たな]知的所有の考え方にそって、新たな機関の役割を組織し、支援し、広報します。

2.研究者主導の雑誌出版イニシアチブにたいする支援。研究者が、学術コミュニケーションの主導権を主張し、行動を起こそうとするならば、具体的な選択肢をもつ必要があります。雑誌の長期的な将来はともかくとして、今日の研究者のほとんどは、このフィルターを通して課題にかかわります。SPARCは、研究者が主導するイニシアチブに焦点をあてています。ここでは、エディトリアルボードが『独立を宣言(declaring independence)』し、重要な新しい分野を明らかにし、革新的な付加価値モデルを提案し、新たな経済モデルの実験をすすめます。

3.デジタル出版事業の新たな連携モデルの模索。BioOneの顕著な成功は、他のイニシアチブにたいして有効な経験の基盤を与えています。SPARCがかかわった他のプロジェクト(たとえば、 Columbia Earthscape、 Project Euclid、 Figaro、Rural Sociology Online)とともに、BioOneは、情報の連鎖におけるさまざまなプレイヤー(たとえば、学会、図書館、コンソーシア、計算センター、大学出版局など)が目的を共有して団結するといかの力を発揮しうるかを示しています。2002年では、SPARCは、この力を利用して研究者に彼らの研究成果を提供するより有効な手段を創造するプロジェクトに積極的な支援を行うつもりです。

 SPARCは、さまざまな活動をつうじて、こうしたイニシアチブを支援します。支援によって、情報が共有され、現在は専門としない(特にビジネスや財務計画など)特殊な経験や熟練が伝達、適応され、マーケティングサービスが提供されることをめざしています。以下は、SPARCが計画し2002年の展開にむけて調査をすすめているいくつかの活動です。

・『Gaining Independence』:この無料で広範なウエッブ資源は、e-パブリッシングのためのビジネスプランを立てるうえで図書館員や研究者に必要な情報を与えています。

・SPARCコンサルティンググループ:専門コンサルタントのネットワークをつうじて、SPARCは、ビジネス、財務、そして戦略に関する綿密なコンサルティングサービスを有料で提供します。対象は、大学や大学出版局、非営利の学会や団体などです。

・SPARC法務サービス:SPARCは、エディトリアルボードに『独立を宣言』するための助言をしてくれるような法律事務所のサービス利用を促進し、かかる費用を援助することを模索しています。

・国際的なマーケティング資源:年間購読契約モデルを採用し、原価回復を財政的な基盤とする雑誌やアグリゲーションにとって、彼らの情報資源にたいする市場を拡大することは価格の低減へのひとつの方策です。しかし、多くの弱小出版社にとって国際市場は巨大な手付かずの資源となっています。SPARCは、新規の弱小出版社による国際的な契約の獲得を支援することを目的として、無料のウエッブ資源を提供することを検討しています。

・出版資源のリストと評価:SPARCは、デジタル出版プログラムを展開しようとする機関や小規模の学会にたいしてウエッブによる資源のリストの公開を計画しています。初期的な焦点は、オープンな保存や審査の管理、e-雑誌の製作が可能となるようなソフトウェアの確認と評価ということになります。

・ワークショップ:SPARCは、新たな情報の保存とサービスを設立するにあたり、技術的ないしビジネス・財務的な側面から必要とされる実際的な情報を提供するためにワークショップを開催することを計画しています。

・機関による保存の連携:SPARCは、長期的なシナリオとして、大学や学会、コンソーシアなどによる機関ないし学問分野を単位とした保存装置が相互に操作可能なゆるい横の連携をはかることによって、学術研究の成果がオープンに利用できる環境を模索しています。SPARCの次の数年間の目標は、このシナリオにそって学術出版を移行させていくことにあります。2002年においては、SPARCは、情報や経験の共有をつうじてこのプロセスを実現させる方法を模索するつもりです。

・オープンアクセスビジネスモデル:SPARCは、また、研究成果にたいするオープンアクセスを可能とし、購読契約に対抗して学術コミュニケーションを支援する手段としての代替装置を可能とするビジネスモデルによるe-雑誌の開発を支援します。これは、SPARCが啓発的な役割を演じたブダペストオープンアクセスイニシアチブで提唱された目的でもあります。現在、SPARCの出版パートナーとなっている雑誌のうち6誌がオープンなアクセスを可能としており、SPARCは、さらにこうした連携の拡大とその費用効果のさらなる広報をすすめるつもりです。また、SPARCは、学会の雑誌収入への依存を軽減する方策も模索するつもりです。

広報と教育

 SPARCは、学術コミュニティーに益する学術出版の文化的変革をすすめる効果的な代弁者の役割を果たしてきています。(SPARC、ARL、そしてACRLによって開始された)『Create Change』イニシアチブや、(Triangle Research Libraries Networkの支援によりSPARCによってすすめられた)『Declaring Independence』プログラムは、図書館員や研究者が彼らのコミュニティーで活動家となるために必要な道具を与えました。

 SPARCの広報と教育を国際的に拡充することが2002年のおおきな方針となりました。2002年のSPARC Europeの設立は、2001年にその基礎が置かれました。そして、ヨーロッパにおける『Create Change』や『Declaring Independence』プログラムの展開は当面の方針となります。SPARC Japanイニシアチブの組織はすでに開始されており、これは、強力な広報のアジェンダとなることでしょう。SPARCは、イギリスやアイルランドにおいてCURLやSCONULの広報活動に協力することになっています。SPARCは、また、国際学術コミュニケーション連合の運営委員会に参加することになっています。

 同時に、SPARCは、新たに設立されたACRL学術コミュニケーションプログラムや高等教育機関との密接な連携をすすめながら北米におけるそのメッセージの影響力を拡大する方策をさぐりつづけています。

 SPARCは、購読契約によるよりも基金による研究成果の流通がもたらす恩恵について米国の研究基金と議論を開始する予定です。これにより、ブダペストオープンアクセスイニシアチブで表明されたオープンアクセスのビジネスモデルの展開が支援されることになります。

 SPARCの講演担当事務局は、キャンパスに基盤をおいた学術コミュニケーションにかかわる研究者との連携を支援します。キャンパスプログラムの策定と講演者の確定における人的な支援の提供に加えて、私たちはウエッブによる講演者のデータベースの提供をはじめる予定です。さらに、SPARCのメンバーにたいして、SPARCやARLなどが開発した学術コミュニケーションにかかわる教育的な資源の利用の促進を呼びかけることにしています。SPARCのメンバーが、キャンパスの教育プログラムとの関連で何をしようとしているのかについてさらに多くの情報が必要とされており、また、これらの情報をSPARCのメンバー間で共有することが求められています。

 SPARCは、これらのテーマをその広報および教育活動のなかで強調していきます。

・(ブダペストオープンアクセスイニシアチブで提唱されたように)研究成果にたいするバリアフリーアクセスの変革的可能性

・雑誌出版産業の吸収合併の危険性

・研究にたいする著者の権利の擁護と拡大の重要性

・学術コミュニケーションにたいするコミュニティーによる統制の緊急性

・学術コミュニケーションにおいて機関と図書館が演ずる有益な役割とその役割の効果的な拡充

加えて、SPARCは、教育と広報プログラムをつうじてさらに活力あるグループや幅広い機関、多くの個々人と新たなパートナーシップを構築する所存です。

BACK / CILC Home